モチベーションは楽しさ創造から

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私達は否認の罠に陥っていないか?

2008年11月号のハーバードビジネスレビューは、かなり面白い論文がたくさんありました。



一つ紹介すると、Richard.S.Tedlow博士の『否認の罠』という論文。





『否認』とは、心理学のフロイト博士が定義した「現実を現実として認めない状態」の事です。この『否認の罠』という状態は、実は私達がついおこなってしまいがちになる行動だと思います。





『否認の罠』の例を、自動車業界の例で博士は説明しています。





自動車に限らす、製品には「中核部分」(製品の主要目的)と、「拡張部分」(追加機能や特性)という2つの部分から構成されています。






  • 1908年 フォードがT型フォードを生産開始。「中核部分」の「安くて、信用できる輸送手段」としてのT型フォードは爆発的人気を呼びます。

  • 1927年  フォードは深刻な売上不振に。T型フォードの拡大再生産に向けて大規模な設備投資をしたが、売れません。クライスラーGMが、「拡張部分」を強化した商品を売り出したから。「信用できる輸送手段」は当たり前。豊富な色やデザインの車に、顧客の関心はシフトしていきました。(フォードは、T型フォードにより、「否認の罠」に陥ったのです。)



  • 1980年代 27年以来、アメリカの車はドンドン大型になっていきます。豊かさの象徴としての車は「拡張部分」が売りの決め手でした。しかしオイルショックが起こります。消費者の関心は、燃費と安さに移っていきます。そこで日本車が爆発的に売れていきます。「機能が優れ、燃費がよく、安い」という日本の小型車の持つ中核部分に、顧客の関心はシフトしてったのです。(アメリカ自動車業界は、大型化で成功したことにより、「否認の罠」に陥ったのです。)

それから20年。90年代は再び「拡張部分」に脚光が浴びました。デザイン、乗り心地が優れている車がドンドン売れていきました。そして最近は、原油高騰の結果、再び、「中核部分」に脚光が当たっています。燃費の良さで、エコカーが売れている。





日本の自動車メーカーは、『否認の罠』に陥らず、顧客ニーズの変化を先回りし、対応できていると思うのですが、アメリカの自動車業界は典型的な『否認の罠』状態。GMの経営不振もまさに、これなのでしょう。





アメリカの自動車業界の経営者はバカではなく、とても優秀な人達だと思うのです。そんな彼らでも、否認の罠に陥ってしまうのです。これは私達の身近にも起きている問題ではないでしょうか?





「過去の成功体験」があれば、あるほど、『否認の罠』に陥りやすい。

「過去の成功体験」が大きければ、大きいほど『否認の罠』に陥りやすい。





昨日のブログのテーマも同じだと思うのです。

ある時期まで、私達は「悲壮感に基づく行動」によって成功してきました。戦後の焼け野原という状態、資源がない国家という環境、それらをベースに「悲壮感に基づく行動」で成功してきました。それも、大成功です。だから、今でも「悲壮感に基づく行動」ができていると思っている。「悲壮感」を刺激していけば、「人はやる気になる」と思っている。





しかし、いつのまにか私達は豊かになった。私達より「大きな悲壮感」を感じる人達がでてきてしまった。この現実は否定できない話だと思います。やる気の中核部分が「悲壮感」だとすれば、そこでの勝ち目がなくなってきた。





だから、やる気の拡張部分に目を向けていかなければならない。しかし、未だに『否認の罠』に陥っている人が多いのが現実なのでしょうね。





「否認の罠」というコンセプト、中核部分と拡張部分というコンセプト、これら2つが学べる面白い論文でした。