「金の為に仕事をする」と思わせれば思わせるほど、高コスト体質になる
今、ダン・アリエリー著の『予想どおりに不合理』という本を読んでいます。
ダン・アリエリーは、行動経済学の第1人者。
予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
- 作者: ダンアリエリー,Dan Ariely,熊谷淳子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/11/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 31人 クリック: 417回
- この商品を含むブログ (152件) を見る
この中で、特に面白かったのが、「なぜ楽しみでやっていたことが、報酬をもらうようになると楽しくなくなるのか?」という章でした。
アリエリーが指摘するのは、私達は、2つの世界で生きているということ。「社会的規範が優勢な世界」と「市場規範が優越な世界」という2つの世界を同時に生きているというのです。
「社会的規範が優勢な世界」とは、友達・家族・隣人からの頼み事、ボランティア、地域活動など。
・今度、引っ越しするから手伝ってくれない
・宿題をするのを手伝ってよ
・今度、ちょっと子供を預かってくれない
・他人の為にドアを開けてやる
・お年寄りに席を譲る
などというような事。こちらがやっても、相手にお返しを期待していないような事。
一方、「市場規範が優越な世界」とは、賃金、利息、賃貸料等の何かのサービスを受ければ、支払いが必要になるもの。(支払いを受けとれば、何かの期待を満たす必要があるもの)
この2つが明確に別れているケースもあるが、現実には混乱している。
例えばセックス。
夫婦間、恋人関係であればセックスをするという行為は「社会的規範が優越な世界」の行為。
しかし、売春という行為は「市場規範が優越な世界」の行為。
では、男女が出会い、何度かデートを重ね、そのディナーやデート代を男性が支払う。そして、その後、セックスに至る。
そうした場合は、どうなるのだろうか?お金の事を何も言わなければ、「社会的規範が優越な世界」の行為。
しかし、一言、「今までのデート代で10万以上支払ったのだから、・・」などと言えば、その行為は「市場規範が優越な世界」の行為と男性が思っていると女性は感じ、険悪な雰囲気になる。
この事に関して、アリエリーは一つの実験を紹介しています。託児所において、約束の時間を守らない親が多いので、それに罰金をとるという実験をしてみた。すると、結果は逆に、約束を守らない親が増えたというのです。(社会的規範の行為から市場規範の行為と、「約束を守る」という行為が変わったのです。)更に、罰金制度をやめると、更に、約束を守らない親が増えたというのです。一度、市場規範の行為とみなされると、社会的規範の行為に戻るのが難しいという事をこの実験は示しています。
仕事も同じで、家族的雰囲気の零細企業においてよく見られるのが、残業代なし、祝日手当なしで働いてくれる社員さん達。人数も少ないこともあり、彼らは社長とも頻繁に食事会をおこなったり、レクレーションをしたり家族的付き合いをしていたりします。だから、「社長が放っておけない仲間」であり、「尊敬できる仲間」という高いロイヤリティを社長に彼らは抱いている。そんな事もあり、彼らにとっては残業や日曜出勤は、「社会的規範が優越な世界」の行為となっていたりします。外から見ているのと違い、本人達も楽しく仕事をやっていたりする。
しかし、そんな会社も大きくなるに連れ、人事制度も整備していく。家族的な交流もダンダン少なくなってくる。そうなると、残業、日曜出勤は「市場規範が優越な世界」の行為となってくる。きちんと、金を支払えという事になってくる。そして、金をもらうようになってくると、ダンダン仕事も面白くなくなってくる。こんな光景をよく見ます。
管理職として仕事を与える立場で考えてみると、部下に対し、いかに仕事を「社会的規範が優越な世界」の行為と感じて貰うかがとても重要になってくるという事をアリエリーは指摘しています。お金は人のふれあいの最もいいところを抜き取ってしまう。長い目で見た場合、このような関係の構築が最も効果を生むというのです
。
その為には、
・仕事の価値について部下に理解させ
・部下と自分との間に、人間的な信頼関係を築き、イイ意味での親分子分関係を構築し
・日々の仕事の中で、部下が恩義を感じるだけの面倒を見てあげる
・一緒に何かを作り出していく仲間だという意識を植え付け
・食事なども、頻繁に行うことで人間的関係を構築していき
友好ムードを作っていく事が大事になるのでしょう。それが忠誠心、自ら努力をしていくという気持ちにさせていく。
企業は、短期的利益への執着、外部委託や経費削減に熱心になればなるほど、社員に仕事は「市場規範が優位な世界」の行為と感じさせることになる。そうなれば、社員は「金」でしか動いてくれなくなってしまう。
金銭的な部分に関しては、できる限り上司は語らずに、仕事を「社会的規範が優越な世界」の行為と感じさせる事が、社員のモチベーションには重要になってくるのです。
側にいる上司や、会社は何かまずいことがあっても守ってくれる人と信じて貰い、契約書に書かれているワケではないが、お互いに困ったことがあれば面倒を見合うという関係の構築が、今こそ大事なのでしょうね。それが、企業への忠誠心、上司への忠誠心という言葉になてくる。
今、利に走った企業が、自らそれを崩しており、かえって高コスト体質企業を作ってしまうことになっているような気がしますね。
PS 私の新刊『仕事がつまらない君へ』、リアル書店ではとても売れ行きがいいようです。
発売1週間で増刷が決まりました。是非、皆様もチェックして頂ければ嬉しいです。
- 作者: 小林英二
- 出版社/メーカー: シーアンドアール研究所
- 発売日: 2009/01/23
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (6件) を見る