沈黙は幹。言葉は枝葉
部下に指導する際、私達はどうしても多弁になります。「指導」をしなければならない状況ですから、当然、何かの問題があるワケです。指導する側には、改善して欲しい方向性もある。
言いたいことが、たくさんあるので、多弁になるワケです。
部下の指導法についての本も、「分かりやすい教え方」などといった本も多数出ています。私達は、「どう話すか?」「どう伝えるか?」に関心が向きます。「やる気」を引き出すにしても、そうです。「どんな言葉」を伝えれば、モチベーションアップにつながるかばかりに関心が向きます。
部下を指導する場面や、部下のやる気を引き出す必要な場面でも最も大切なのは、「私達が話す言葉」より、「沈黙」なのではないでしょうか?
吉本隆明さんが「言葉は枝葉であり、沈黙が幹である」という趣旨の言葉を話されていたのですが、部下指導、やる気を引き出す際も、まさにこの言葉が当てはまるのではないでしょうか?
私達は、相手を変えようと焦ってしまうと、多弁になります。「言葉のチカラ」に頼り、強引に説得しようとする。そうなると逆に墓穴を掘る形になってしまいます。
部下を「やる気にさせる言葉」などというものは、なかなか存在しません。瞬間的に「やる気にさせる言葉」はあると思うが、継続的に「やる気」にさせる言葉はたった一つ。「沈黙」。
言葉は、ガツーンとインパクトを与える事ができます。例えば、映画やドラマ、スポーツを見て「心を動かされ」感動します。しかし、映画を見た後、すぐに子供がやってきて、「パパ遊ぼう」という事になると、どうでしょう。
たぶんその感動は、消化されてすぐに忘れてしまうのではないでしょうか?大きな感動を与えてくれるようなスポーツや映画を見てもそうですから、私達の指導などすぐ忘れ去られて当然かもしれません。
「余韻」という「沈黙」があり、そこで熟考をする。一人でじっくりと熟考するという情報処理を行うことをとおして、ホントに「考え方が自分のものとして定着していく」のではないでしょうか?
熟考させる為の「沈黙」をせず、ひっきりなしに言葉の洪水を浴びせてしまっては、相手はパニックになるだけです。
沈黙があり、熟考があり、納得があって、はじめて人は行動を起こそうとする。
NFLの歴代の中でも有数の名ヘッドコーチと言われるビル・ベルチックの指導の仕方がユニークで知られています。最もユニークなのが、選手に考えさせる事。練習中、「今、なぜQBはあの選手にパスを投げたと思う?」と、プレーを何度も止めて、選手に考えさせるそうです。選手に改善点を指摘するのではなく、「ホントに今のままでいいのか?」をじっくり考えさせる。そうする事で、「コーチの戦略、戦術」を選手に自分のものとして昇華させていくようです。
この「沈黙」を活かす為に、他の言葉が必要。ある文脈の中に入れるコトで「沈黙」が光り輝いてくる。
*黙って、見守ってあげる
*黙って、まずやらせてみる
*熟考してもらう為の、質問(言葉)を与えてやる
*黙って、考えさせてみる
沈黙を活かす為に、「言葉」が存在する。
焦って多弁になる事なく、沈黙を活かすという事が、私達に求められるような期がします。